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2010年7月

2010年7月13日 (火)

七月の光

 景色が揺らいで見える。止まっているのに、何かが動き続けているように錯覚する。
 七月の強い日差しを手で遮って、その落とす影と温度差とを顔に感じていたとき、不意にある男のことを思いだした。
 その男になぜ会ったのか、よく覚えていない、なのに思い出す次のシーンでは私は男の車に乗っている。

 知らない人みたいだ。

 ふと助手席を向いた男の顔を見て、どきっとした。
「あれ、サングラス、かけてたっけ?」
 言ってから自分でおかしくなる。なんたって正真正銘初対面の男じゃないか。
「いや。色が変わる」
 と男は答えて、太陽を指差した。
「ああ、偏光っていうんだっけそういうレンズ?」
「偏光は、違う。あれは特定の波長を制限するもので、光学的なブラインドみたいな仕組みになってたんだと思う。たとえば、狩猟用には青色のぎらつきをカット、とかね」
 相槌を打ったまま私が黙ると、
しばらくラジオと風景だけが場流れていた。速度を出していてもその人の運転は安心できた。
「じゃあそういう、周りの光量によってシェードが変わるレンズ、なんていうの?」
 思いだしたように私は聞く。
「なんだっけね」
 男は苦笑した。
「俺の周りには、多いんだけどね。長い時間運転しなけりゃならないし、その間コンディション変えちゃいけないから」
「へえ。なにしてるんだっけ仕事?」
「テスト・ドライヴァー」
 そのとき私を見た男はクリアな眼鏡をかけていて、瞳の中までが透けて見えた。知らない男は、もう知っている男だった。

テスト

テスト

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